ニュージーランドでは近年、移住希望者が増加しており、住宅の数が足りない状況が続いています。今回は、この「住宅不足」の問題に対するニュージーランド政府の取り組みをご紹介します。
人口がますます増えるNZ…大規模な区画整理が必要
近年、ニュージーランドでは移住による人口増加が続き、6月までの1年間にみる純増数は6万9,090人となりました。
スタティスティクス・ニュージーランド(Statistics NZ)によれば、純増数は2015年の6月までに5万8,259人、そして2014年の6月までに3万8,338人にも達しました。
最新指標では増加率こそ落ちてきてはいるものの、移住による人口増加は、月間ベース、年間ベース共に増加傾向にあることが分かります。現在の傾向が続けば、年間純増数が今後数カ月間で7万人を超える可能性があります。
永住または長期滞在を目的とした入国者数は、6月までの1年間に12万5,055人あり、また他国への永住、または長期滞在を目的とする出国者数は5万5,965人あったことから、移住者の純増数は6万9,090人でした。
12万5,055人の新規入国者のうち、3万759人がニュージーランド人の帰国組であり、9万4,296人が外国籍でした。また、5万5,965人の長期出国者の内、3万3,898人がニュージーランド人で、2万2,067人が外国籍でした。
6月までの1年間の新規移住者のうち、最も高い割合を占めていたのがインド国籍で、1万2,031人でした。次いで中国および香港籍の1万433人、そしてフィリピン国籍の5,010人、UK国籍の4,263人、フランス国籍の3,125人、南アフリカ国籍の3,054人、ドイツ国籍の3,044人と続きました。また、同期間中のオーストラリア国籍の純増数は1,933人でした。
[図表1]ニュージーランドにおける純移動率
移民増加における住宅不足を解決するために、独立聴聞パネル(またはIHP:Independent Hearings Panel)は、オークランド・ユニタリー・プランがどうあるべきかを明らかにする上で1万件以上もの根拠を得、249日間にも及ぶ聴聞会を開きました。
同パネルは、2041年までに42万2,000棟の新規住宅を建築するため、オークランド地区の再区分を行う必要があるとしており、これは必要と予想される住宅数よりも2万2,000棟多く、また、オークランド・カウンシルによって告知されたユニタリー・プラン案よりも20万9,000棟多いものです。
また、オークランドの農村都市移行地帯(農村と都市の境)を30%まで拡大すべきであるともしています。この計画(ユニタリー・プラン)は、「オークランドの住宅供給目標の多くに合致する」として政府の初期承認を得ています。
独立聴聞パネルは自身の計画について、「長期に渡って住宅需要を満せる開発形態が可能となり、それは過度な収容能力の確保には当たらない」としています。
その計画では、都心部に27万棟、新たな都心部に生活区域として区画された土地に2万3,000棟、田園地帯に1万4,000棟、将来の都心部に11万5,000棟の新規住宅を建設できるだけの収容能力を設けることを提案しています。
さらに、独立聴聞パネルはこの計画の下、以下のことが行われるとしています。
①農村都市移行地帯を維持しつつ、同地帯を30%増やし、民間による計画変更が反映できるようにする。
②都心部の成長、交通結節点、および回廊地帯を中心に「快適でコンパクトな都市形態」を目指す。
③住宅地区での密度規制の撤廃。
④1944年以前に建てられた住宅の保護を解除。
⑤新規または既存の田園都市および農村の成長と発展を可能にする。
⑥今後30年間に渡って住宅需要に見合った開発形態を可能にし、実現可能な住宅収容能力を今の2倍とすることで、40万棟以上収容できるようにする。
⑦計画の枠組みから一切の条件を外し、再区分の包括的な承認プロセスを可能にする(土木作業およびインフラ事業を含む)
⑧歴史遺産のある地域および特徴のある地域の保護。
⑨様々な形態の住宅を供給することで、良心的な価格の住宅を提供する。
独立聴聞パネルは、住宅供給における増加分の60~70%を既存の都市圏内で調整し(郊外地域の増強を含む)、残りの30~40%を新規未開発地域で調整するとしています。
[図表2]ニュージーランドにおける住宅供給目標
宅地開発は旧地方議会と市議会の「緊張の解消」が鍵
先日、ニック・スミス環境相は、ユニタリー・プランに対し独立聴聞パネルが行った推奨内容の発表を歓迎するとした上で、この新たな計画がオークランドの将来にとって重要であると述べました。
続けて、ニック環境相は以下のように述べました。
「オークランドにおける現在の計画規定は、7つの異なるカウンシルが存在し、今よりも人口が40万人少なかった1990年台にまで遡ります。独立聴聞パネルは、複雑な問題に取り組み、競合利益の均衡を保ってきました」
「この新計画書は、55万棟にも及ぶ物件の開発規定、水管理、大気質、そして海洋環境に影響するという性格から複雑なものになります。当局者より本日受け取ったこの計画の内容について、ハイレベルなブリーフィングが必要です。この新たな計画はオークランドの多くの住宅建設目標と合致するものとなるでしょう。また、各省庁および政府機関が完全に内容を把握するには時間を要するでしょう」
「差し戻されたユニタリー・プランが、カウンシルにとって大きな課題となることは認識しています。以前オークランドでは、大都市の範囲を厳しく制限することを望む旧地方議会と、さらなる拡大を望む郡議会および市議会との間の緊張を解消できずにいました。この混乱が発展への対策不足および現在の住宅供給不足を招きました。唯一の議会であるオークランド・カウンシルの強みは、こうした問題を解決できる点にあります」
「政府は、レン・ブラウン市長および議会が、この新計画がオークランドの将来にとっていかに重要であるかについて理解を示してくれると確信しています。私たちは風通しをよくし、議会が熟慮した上で決定を下せるようにします。また、新たな住宅建築を巡って得られた今の勢いを維持するため、担当官が特別住宅地区プログラム(SHA)から新規ユニタリー・プランへの移行の円滑化を図ります」
新ユニタリー・プランが住宅価格にどれくらいインパクトを与えるかは、今後の注目すべきところです。
Author Profile
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元ツアーコンダクター。世界を周る中で、オセアニアのニュージーランドとオーストラリアを添乗したことがきっかけで、NZオークランドに移住を決意。淡路阪神大震災を経験したこともあり、1996年にオークランドへ移住実行。
「住居さえあれば暮らしは成り立つ」とワンルームマンションを購入したことがきっかけで不動産業界に参入。
20年間所属していた現地大手不動産仲介会社Harcourts(ハーコウツ)から、2018年創業の新しい不動産仲介会社Arizto(アリスト)Ltdに移籍。デジタル化社会・SNS時代に適合した独自システムを活用しながら、新時代の不動産コンサルタント業務に従事。精力的に活動している。
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