不動産投資において、購入する物件の状態を確認することは非常に大切です。今回は、ニュージーランドの物件を購入する際に必ず確認したい「LIMレポート」の概要を説明します。
「自治体が有する」物件情報のすべてが記載
物件の購入にあたっては、「デュー・デリジェンス(適正評価)」という言葉をよく耳にします。それは、興味のある物件に正式なリサーチをかけるというものですが、推奨されるリサーチの中でも最良とされるのがLIMレポートと呼ばれるものです。
それはどのようなもので、なぜ必要なのでしょうか。
LIM(ランド・インフォメーション・メモランダム<※日本の登記事項証明書に相当>)は市町村役場または地方自治体が発行するレポートであり、当該物件について自治体が有するすべての情報が記載されています。具体的には、自治体が当該物件に関与したすべての事柄が記載されています。
以下の内容が含まれます。
●都市計画に関する情報
●当該物件の利用に影響を与える地勢に関する情報(洪水や侵食、風害、地盤沈下など)
●当該物件に影響すると考えられる道路開発計画または公共事業計画(下水道工事など)
●当該物件に係る貸付金利および負債の詳細
●当該物件の敷地内にある保護樹木または歴史的建造物に関する情報
●当該物件に係る資源利用許可または建設許可の詳細
LIMレポートについて覚えておくべきことは、購入希望物件に関する極めて重要な情報が含まれている一方で、すべての情報が網羅されているわけではないということです。
例えば、最新の調査測定結果や、建物の構造的完全性、(塩酸)メタンフェタミンなどの物質による汚染の恐れに関する情報などは含まれません。
そうした懸念については、別途、建築監査官および塩酸メタンフェタミン監査官によるレポートが必要になります(NZスタンダード・オーソリティ(※規格など定める当局)は現在、塩酸メタンフェタミン汚染検査について国内統一基準の準備を進めています)
洪水リスクなど、物件を見ただけでは得られない情報も
それではなぜLIMレポートが必要なのでしょうか。
LIMレポートには、自治体が承認した過去の修正または建設作業が明記されています。また、洪水の影響を受けやすい地域や、将来的に地盤沈下や侵食が起こると推定される地域についても記載されている場合があります。こうした情報は物件を見ただけでは得られない可能性があります。
またLIMでは、生活の快適さや物件の将来的価値に影響を与える可能性のある道路の拡張や新しいルートの開設についても警告しています。
当該物件で現在どのようなことが起きているか、常にLIMで確認する必要があります。ただし、当該物件に対し施されたすべての内容がLIMに記載されているわけではありません。例えば自治体が関与していないものについては記載されません。もしLIMに記載のない顕著な建設が当該物件上になされている場合には、申し込みをする前に弁護士および不動産会社の販売コンサルタントに相談してください。
担当弁護士が常にLIMに目を通し、あなたが見過ごしている点について示してくれることが望ましいといえます。また、LIM上での懸念事項について、売り渡しの際の条件として不動産業者による修理・改善を要求することができます。
どのようなデュー・デリジェンスであっても、LIMレポートの発行に当たっては経費が発生します。自身の入札または申し出が必ずしも受け入れられるとは限らないため、これが1つのハードルとなっています。
ニュージーランドの大半の自治体では、緊急性にもよりますが、200ドル~400ドルでLIMを発行しています。LIM申請を取り消すこともできますが、定められた取り消し猶予期間内に行う必要があり、また、LIMに係る作業の進行度合いに応じたキャンセル料が発生する場合があります。
LIMレポート、または建設レポート、塩酸メタンフェタミン検査などの他のデュー・デリジェンスにお金を投じる際に検討すべき重要なことは、その入手費用と当該物件について後々致命的欠陥または不適合となり得る個所を洗い出すための費用(その修繕に係る費用または保険料、転売時の価値への影響など)とを比較検討することです。
LIMに係る費用は、検討中の物件を自身がどこまで本気で入手したいかを調べるためのブライトライン・テストのようなものと捉えるとよいでしょう。
どのような住宅を手に入れたいか明確なビジョンがあり、その物件がすべての要件を満たしているのであれば(LIMから得られる情報を考慮し、LIM費をその物件価値の一部であると考えるならば)、LIMに支払う価値があるでしょう。ニュージーランドの中古不動産に投資をする上で、安心材料となるといえるでしょう。
Author Profile
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元ツアーコンダクター。世界を周る中で、オセアニアのニュージーランドとオーストラリアを添乗したことがきっかけで、NZオークランドに移住を決意。淡路阪神大震災を経験したこともあり、1996年にオークランドへ移住実行。
「住居さえあれば暮らしは成り立つ」とワンルームマンションを購入したことがきっかけで不動産業界に参入。
20年間所属していた現地大手不動産仲介会社Harcourts(ハーコウツ)から、2018年創業の新しい不動産仲介会社Arizto(アリスト)Ltdに移籍。デジタル化社会・SNS時代に適合した独自システムを活用しながら、新時代の不動産コンサルタント業務に従事。精力的に活動している。
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