【連載158回目】ニュージーランドで不動産が「売れに売れている」意外な背景
2021年3月12日
連載コラム 一色 良子GooNZ GooProperty nzに住みたい オークランド ニュージーランド ノースショア ファーストバイヤー 低金利 海外不動産
2021年2月14日、ニュージーランドのアーダーン首相は記者会見を行い、新型コロナウイルスの感染者3人が出現したことを理由に、オークランドで15日から3日間にわたるロックダウンを実施すると発表しました。しかし、市民生活が厳しく規制される一方、ニュージーランドの不動産マーケットはまれに見る活況で、慢性的な「売物件不足」が続いています。オークランド在住で不動産会社を経営する筆者が、現地でしか掴めない不動産事情をレポートします。
繰り返されるロックダウンで、街は閑散とするも…
ニュージーランドではコロナ禍が終息したかと錯覚するほどの平和な新年を迎え、国民はサマーホリデーを満喫しました。ところが2月に入り、オークランド南部で感染者3名が出現。のんびりムードだった国内に衝撃が走りました。
14日にはアーダーン首相が記者会見を行い、オークランドで15日から3日間にわたるロックダウンの実施を発表。突然のことで、われわれも仕事の段取り等、いくつもの変更を強いられました。もちろん、日常生活についての対応にも追われることになり、食品をはじめとする生活必需品をそろえるために右往左往したものです。
とはいえ、その際は3日間で解除されたため、街はすぐ普段の様子を取り戻しました。
しかし、ほっとしたのもつかの間、経路不明の感染者が1人出現し、複数の店舗をまたいだ市街の移動が確認されたため、またしても7日間のロックダウンに突入しました。
これにより、オークランドは警戒レベル3、その他の都市は警戒レベル2となりました。オークランドとワイカトの境界では、警察が出動して市民の行き来をストップするなど、あたかも国境警備のような重々しい状態でした。筆者はその時期、ワイカト地方への複数回の出張の予定があったため、「もし出張先でロックダウンに遭遇していたら…」とぞっとしました。
多くの人がロックダウンの長期化を懸念していましたが、幸いなことに、新たな感染者は出現せず、それにより予定通りのスケジュールで警戒レベル3は解除され、オークランドは警戒レベル2に、その他は警戒レベル1へと引き下げられました。ほぼ正常な生活ができるようになったのです。
そうはいっても、このロックダウン中は飲食店、商店街はほぼ閉店。街は閑散としており、7日間とはいえ、昨年の緊急事態が思い起こされるようでした。
ところがです。商店の閑散とした様子とは打って変わり、不動産業界は問い合わせの電話が鳴り止まないほどの大盛況です。夜中になってもメール着信が続きます。リモートワークする人が増え、自宅の滞在時間が長くなったからでしょう。投資物件やマイホームを探す人々がネットを検索し、セールスマンに次々と問い合わせをしているのです。
警戒レベル3のときには、物件の内乱は1日2組まででした。そのため、通常の一般公開としてまとめての内覧ができず、日を分けて案内する必要があったのです。そのため、逆に通常よりも忙しく、ほぼ毎日オープンホームという状態になっていました。
訪問者が帰ったあとは、消毒作業もしなければなりません。うれしい悲鳴が上がる一方、体力的には大変でした。しかし、「Withコロナ」となってもう1年以上です。リモートワークにも慣れ、オークションですらZoomでの開催が当たり前になりました。このような状況下でも着実に成果は上がっており、不動産は売れに売れている、というのがオークランドの実情です。
金利はついに2%台へ、住宅購入のハードルも低下
住宅ローンの状況ですが、芸罪は金利が下がり、2%台に突入しました。そのため、ファーストホームバイヤーにとっては購入しやすく、チャンスが広がっています。
オークランドの平均値である100万ドル台の物件は、そう簡単に購入できないため、アパートメントやタウンハウスといった集合住宅への注目が集まっています。
たとえば、ノースショア地区にある80万ドル台のタウンハウスです。近隣の賃貸物件で暮らしている20代後半から30代の若い世代のシングル、カップル、家族層が注目する物件で、広さは140m2程度、3つのベットルーム、ガレージ付き。近隣にはスーパーマーケットがあるほか、ショッピングモール、高速道路へのアクセスも便利で人気があります。
「シティのアパートに住んでいるが、一戸建て感覚の自宅がほしい」と検討する高齢のお客様のほか、「100万ドル以上は手が届かないが、80万ドル台ならなんとか…」という投資家の方にも人気があります。メンテナンスが簡単で、テナントもつきやすいからです。こういったファミリー層や投資家の競合が発生しているのです。
不自由を強いられる状況が、一部業界を潤している!?
通常、オークション売りなら当日に契約が成立しますが、集合住宅の場合は、若い世代や投資家への売却が多いため、調査する内容が多岐にわたり(もちろんオークション売りでも実施しますが)、ローン申請に時間がかかります。それにより、バイネゴシエーションまたは、定価付けで売るケースが多くなっています。
複数のオファーが来た場合は、「マルティプルオファー」といって複数の買手と面談して交渉を進め、その後に家主との最終交渉へと進むことになります。そのため、いつもの2倍、3倍といった時間をかけて商談を行うことになります。
1回で商談が進む場合も多いのですが、複数のオファーがあっても受け入れられず、再度仕切り直しとなるケースもたまにあります。
「3組のオファー者全員に契約を戻したあと、再度検討してもらって〈ベスト・オファー〉を持ってくる」という駆け引き・仲介こそ、われわれの腕の見せどころになります。記事をタイプしている最中にも、同時に2軒のオファーが来たところです。
1軒は今夜にも家主様との面談が、もう1軒は地方在住の買主様とZoomによる面談を調整中です。加えて別の1組とも面談予定があり、明日か明後日には、家主との交渉を進めることになるでしょう。
新型コロナウイルスの感染拡大によってロックダウンするも、ニュージーランド不動産のマーケットの勢いは止まりません。むしろこの状況が強い追い風となっています。同様に、印刷(看板・パンフレット制作)、レンタル家具業者、広告宣伝に関係する業界も賑わい、経済に貢献しています。
現状では、買手と売手のバランスが維持できず「売り物件不足」が起こっている状況です。「売るならいま」と声をかけ、日々営業をしています。
そのことからも、タウンハウス開発の事業は貴重です。われわれも、宅地開発を推進する市・国の動きと連動し、日夜アンテナを張って新規の「売り物件」探しに奮闘しています。
Author Profile
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1982年、大阪女学院短期大学英語科卒業。カリフォルニア大学デイビス校留学。帰国後、旅行会社のツアーコンダクターに従事。1987年、ニュージーランドツアーの添乗を機に、移住希望を持つ。
1995年1月の阪神・淡路大震災を経験し、1996年に移住を実現。 自己の居住用物件さえあれば、落ち着いて生活ができると感じ、ワンルームマンション購入を実行。その経験を生かし、不動産業界に参入。当時インターネット環境が整いつつある中、日本語ウェブサイトを開設し、留学・観光・不動産投資についてのコンサルティングを始める。
現在、ニュージーランドの大手不動産売買仲介会社であるHarcourts New Lynn(ハーコウツ・ニューリン)支店にてセールスコンサルタントとして活動しながら、日本人のための投資コンサルタント会社Goo Property NZの代表として活躍中。
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