【連載第149回】5週間ロックダウンしたニュージーランド…封鎖緩和で市況は?
2020年5月22日
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新型コロナウイルスの感染対策として、2020年3月26日よりロックダウンを開始したニュージーランド。経済が停滞するなか、不動産市場では意外な動きが見られ、ロックダウン解除後の展開に期待が高まっています。本記事は、オークランド在住で不動産会社を経営する著者が、現地でしか掴めない不動産事情をレポートします。
4月27日、5週間にわたるロックダウンを「解除」
3月26日木曜日よりロックダウンを開始したニュージーランド。開始当初はスーパーマーケットで買い物をするにも行列をつくり、1時間以上も待つことが普通でした。2週間ほど経ったころから少しずつ安定し、場所によっては10分程度の待ち時間でお店に入れるようになりました。
ロックダウン中の高速道路は、業者用のトラック、エッセンシャルワーカーの通勤車のみが走るという状況でした。本来、ニュージーランドが車社会であることを考えると、信じられないほどの静まりようです。
経済はストップしているものの、企業においてはテレビ会議などを利用して交信し、自宅での勤務を続けています。出社せずともテレビ会議がある以上、下半身は短パンやサンダルというリラックスした格好をしつつも上半身だけは正装しなくてはならなかったり、女性の場合は化粧をする必要があったり、ある意味面倒な期間でした。
学校も休みとなっているため、一日中子どもたちのお世話をするお父さん、お母さんにとっては体力のいる時期でしたが、みな工夫を凝らして勉学や遊びの時間を作っていました。地域によってはダンスコンテストを開き、道路に出て近所の人々と交流したり、音楽を楽しんだり、なかには大型スクリーンを用意して一緒に映画を楽しんだところもあったようです。日本でもいままさに同じような光景や行動が見られるのではないでしょうか。
「時間を持て余している時期」ならではの商機も
4月28日火曜日より警戒レベルが3に引き下がり、一部の業務が再開されました。飲食店のテイクアウトサービスが利用可能となり、国民は一斉にファーストフード店に駆け込みました。また、コーヒー好きの国民が多いことから、エスプレッソコーヒーである「フラットホワイト」を買いに走った人も多いことでしょう。また、ドライブスルーが1時間待ちという現象も起こりました。長時間待って飲食物を買うという行動は日頃ではなかなか目にすることはありませんが、現在は時間があり余っている時期ですから、みな惜しみなく並んでいたのでしょう。
一方、我々不動産業界においても、この5週間は家にこもりつつメールやネット会話を活用して顧客と交信を重ね、細々と営業を続けていました。しかし現場案内ができない以上、やはり完全な契約成立へは至れないなど難しい面が多く、特に新規開拓の営業は厳しい状況でした。
不動産協会も工夫を凝らしていました。筆者が所属するHarcourtsの本部は、Zoomを活用した会議で活動を続け、メニューを増やしながらウェブセミナーを開催していました。また、5月中旬に予定されていた年度末の表彰式は、開催の場をオンラインへと切り替え、見事乗り越えました。
この記事を読んでいただく頃には、ニュージーランドはレベル2へと移行し、ほぼ通常の生活ができる状態になっていると思います。しかし「密集を避ける」「手洗いうがいは頻繁に」というコンセプトは変わらず推進されるでしょう。
国内線の飛行機、車・バスによる地方への移動も可能となるので、ツーリズムは部分的に回復します。海外への移動に関しては、オーストラリアをはじめとする近隣ルートの開港が予定されているものの、日本ルートの再開はまだまだ遠い状況にあります。
現在は降水量が少ないため、少しずつ水不足が深刻化しています。酪農家にとってはエサとなる牧草が不足する悩ましい時期です。しかし、もうじき雨季にさしかかるため、この課題は解決されるでしょう。
ロックダウン中の物資調達に関し、ニュージーランドは食料自給率が高いため食物難の心配はないものの、工業用製品においてはほとんどが輸入頼みです。パソコンの不調や、車、機械類に問題を抱えていた人にとっては、心もとない時期となったはずです。なにごとも予備を確保しておくことが大事という教訓を得ました。
「不景気による不動産市場の停滞」は杞憂
我々が基本的に取り扱うものは「住宅」です。賃貸物件は半年先まで家賃の値上げが行われないことになっています。政府がテナントを守るために、管理会社を通じて告知を行ったからです。現状の家賃支払いにおいては、給与の減額や失業が原因で払えない、または割引してほしいという依頼が発生しています。どう対処するかは家主次第ですが、やはり払えないといわれているお金を引き出すことはできず、かといって家から追い出すこともできません。現実的な対応としては、職務状況が復活次第差額を払うことを約束したうえで住ませるケースが多いようです。
今回のコロナの影響によりツーリズムが後退し、Airbnbを経営していた家主は一般賃貸の経営へと移行せざるを得なくなっています。
一方、売買においては、ASBおよびKIWIバンクがファーストホームバイヤーを対象に、2年間の金利を2.99%…3%以下の数値に設定すると発表しました。この数字はニュージーランドおける初めての低金利となります。20数年前から考えると10%ダウンです。近年の標準は4.5%前後です。頭金支払いにおいても5%でよしとするなど、不動産購入を計画している人にとっては非常に買いやすいタイミングとなっています。
筆者は以前から、若い世代の方にむけて、高騰中のオークランド物件に関し、購入をあきらめるのではなく、かといってチャレンジする人のローンの支払いを補助したりでもなく、「自分の資産になる支払いをしたほうがいい」と伝えてきました。このたび初の「金利3%以下」というチャンスを活用し、ロックダウン解除後、ファーストホームバイヤーの購買力がアップすることを期待しています。
不景気による不動産価格の低下を心配する人もいるかと思いますが、現状のロックダウン下でも購入希望者は健在です。やはり、中国、インドなど移民の方々の経済力が強く、ロックダウン中でも、書面上の手続きはメールで交わしておき、物件案内ができるようになったら現場を見て成立させるという人たちもいます。レベル3に移行してから1週間のうちに、トップクラスのセールスマンなら3~4軒の契約を成立させている実態があるほどです。通常の営業よりも労働時間や案内口調が少なくて済むため、正直にいえば羨ましい限りの結果です。
平時の物件案内であれば自由に見て回ることができるため、買い手の方々は複数の家を回って検討します。オファーをするタイミングにおいても、オークションでなければ期限が設けられていないため、ゆっくり検討することができます。
しかし今回はそうもいかないので、ネット上の写真画像である程度物件を見極め、密に現場を走り、ここだ!という物件を見つけると担当セールスマンに資料を取り寄せてもらい、そこでまたある程度条件を詰め、条件付きの契約を成立させるという流れになります。内覧できる状況になれば早速足を運んで、購入するか否かという最終判断を下します。
早い者勝ちともいいますが、複数の人から問い合わせを受ければ、担当者は複数人の意見を聞き、マルチプルオファーといって複数で競い合うかたちを取ります。しかし問い合わせが来てすぐその人との交渉が煮詰まるとなれば、すぐに契約書の用意まで進みます。一歩違いで別の人から問い合わせが来ても、すでに契約交換しているので、進行中の契約が不成立となった場合に改めて連絡します、という対応となります。
新規販売リスト率は一時的に下がっていますが、今週から一気に問い合わせが増え、資産の手放しも発生する可能性が大きく、売り物件数の上昇が期待されます。購買力に関しては、永住目的の移民が増加すると見込み、賃貸マーケット及び富裕層の高級住宅の販売が期待されるとみています。
日本のメディアでも、今回のニュージーランド政府の方針が紹介されたことから、イメージが向上したことでしょう。安全で、治安がよく、自然豊富でフレンドリーなニュージーランド。この好印象とともに、政治的に安定しているという知名度が高まり、移住を希望する富裕層が増えることを期待しています。実はコロナが悪化する前からすでに欧米を中心とした地域から移住申請が増え、移民局の作業が混んでいます。
本記事を読み、ニュージーランドへの永住に少しでも興味を抱いたという方には、いまこそ一歩踏み出す決断力が重要になるかと思います。
現在の日本の映像を見つつニュージーランドの生活ぶりと比較すると、やはり日本は人の密集度がとても高いと感じます。とにかく密集した空間を避け、今後とも安全に過ごしつつ、1日でも早く世界各地の移動が自由を取り戻すことを期待しています。
Author Profile
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元ツアーコンダクター。世界を周る中で、オセアニアのニュージーランドとオーストラリアを添乗したことがきっかけで、NZオークランドに移住を決意。淡路阪神大震災を経験したこともあり、1996年にオークランドへ移住実行。
「住居さえあれば暮らしは成り立つ」とワンルームマンションを購入したことがきっかけで不動産業界に参入。
20年間所属していた現地大手不動産仲介会社Harcourts(ハーコウツ)から、2018年創業の新しい不動産仲介会社Arizto(アリスト)Ltdに移籍。デジタル化社会・SNS時代に適合した独自システムを活用しながら、新時代の不動産コンサルタント業務に従事。精力的に活動している。
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