建物のデザイン、また使用されている素材によって、物件の印象は良いほうにも悪いほうにも変わります。そこで今回は、建物のデザインが物件価値に与える影響と、コンクリートや木材といった建築素材ごとの特徴を見ていきましょう。
デザインひとつで、空間を大きく見せることも可能
今回は、建築デザインがいかに物件の印象や実用性を高めるかについて、建築デザイナーの意見を見ていきましょう。
クライストチャーチの建築家であるサイモン・アルフレイ氏は、建物の外装がいかにデザインの持つ空間と構造を向上させるかについて語っています。
建築的には外装は建物の個性であり、家にユニークさをもたらすスキン(表皮)の役割を担っているため、建物と美しく年月を重ねられるだけでなく、家そのものを引き立てる素材を選ぶことが大切です。
構造の幾何学性を高めることで、外装はデザインに色彩と質感の向上をもたらし、家が持つストーリーとヒストリーを物語ってくれます。
外装で最もエキサイティングなことは、外装が通行人に(勿論あなたにも)様々な視点で建物を見る機会を与えてくれるという点です。家の表通りからと外装に触れられる程間近で見るのとでは、外装材の持つ建築的表現と意味合いの深さは大きく異なります。
建築家は外装を通してデザインの空間と構造を向上させることができます。それはコンクリートと木材、仕上げ材、あるいは明るさと暗さのバランスを用いるなど、材料の組み合わせや、色彩、または自然光と影が建物にもたらす効果を利用することで実現できます。
明るさと暗さの強弱は特に大切です。例えば(主張の強い)ガレージのドアにデザインを施す場合、やや明るいコントラストの外装をドアの周りに施すことで、ガレージのドアが目立たなくなり道の佇まいと調和するでしょう。
外装材を選ぶ際に大切なことはよく考えることで、その素材を使う理由を理解することです。選んだ外装材によってデザイン性が高められ、最終的に建物に反映されます。
インダストリアルな外観からモダン、ドメスティック(家庭的)、または実用的なものまで、どういった外観にしたいのか、建物の目的は何か、そしてどんなストーリーを建物に与えたいのかを考えます。
モダンで頑丈なコンクリート、古風で家庭的な木材…
①コンクリート
モダニズムへの愛の探求の中で、コンクリートは伝統的な外装材ではありませんが、これまで私がデザインした建物によく使用してきました。
コンクリートの持つ、飾り、偽りのない、原料のままの感じがそのシンプルでモダンな見た目に合っています。コンクリートは構造が大胆で強固な建物に特に使用されており、建物と共に劣化していく素材です。スギ製の外壁材と組み合わせることでコンクリートの印象は和らぎます。あるいは材質のままに使用することで、インダストリアル感を演出します。
すべての素材がそうであるように、コンクリートの使用については賛否両論があります。注目すべきは、形成済みのモールド(型)から取り出すまでは(コンクリートが)どうなっているか分からないという点で、その不完全さにみる柔軟性が理想的です。但し、ステイン塗装やペイント塗装などでその大半を覆うこともできます。
コンクリートは耐久性があり、原料のままであり、幾何学的で、たとえるなら荒々しさがあります。
②木材
木材は非常に多様性のある外装材であり、塗装済みウェザーボード(雨よけ板)から縦型のスギ製スラット(細長い薄板)まで、様々な用途があります。古風なものや、モダン調の外観に木材は向いています。
木材の場合、通常7年から10年のサイクルでメンテナンスが必要となりますが、オーガニック素材は位置ズレが起きやすいため、これは不可避です。木材は親しみのある素材であるばかりでなく快適さをもたらし、結果としてドメスティック(家庭的)な印象をもたらします。
③煉瓦(レンガ)およびブロック(コンクリート・ブロック)
煉瓦はシンプルな構造と親しみやすさ、そして敬意を表します。この資材を用いることで、エンドユーザーに頑丈で手のかからない安全な建物を提供することができます(ここのところの横揺れに対応)。
元来、煉瓦は空洞建築材で、その耐候性リスクが分かるのは何十年も先のことでした。何十年経過しても丈夫な煉瓦とブロックは、その入手のしやすさからニュージーランドの建築の場において確固たる地位を確立しました。
テクノロジーとファッションが進化する中でその人気にも変動がありましたが、煉瓦がニュージーランド建築の場から姿を消すことは永久にないでしょう。煉瓦は誰もが知っており、評価し、認めている材料だからです。
④メタル(金属)
外装材としてのメタル使用には興味深いものがあります。典型的なニュージーランドの物置小屋によく使用されるこの波型鉄板を使用することで、建物に実用性を伴った親しみやすさがもたらされます。
長年に渡ってメタル材が進歩・洗練されてきたことで、現代の美観を伴った親しみやすさを表現することができるようになりました。そのため、高・低を問わず建築物にメタル材が使用されるようになりました。
この典型的な外装材は、ジンク(亜鉛)材の発展と相まって、ルーフライン(屋根の輪郭線)にも使用されるようになりました。これは鉄板でルーフラインと外壁との境界線を目立たなくし、構造に興味深い力強さ(ダイナミクス)を与えることができるためです。
⑤天然石
結晶片岩からオアマル・ストーン、花崗岩、そして粘板岩まで、ニュージーランドでは幅広い種類の天然石の外装材が手に入ります。
石の利用による環境破壊を巡ってこれまで数多くの議論が交わされてきました。石は再生可能な資源ではありませんが、石の外装材は唯一、再利用が可能な外装材であるということを知っておくべきです。現在、カンタベリーではこうした考えが主流となっています。
どのような効果を得たいかによって、石に適用できる仕上げは数多くあります。破砕スレート(石板)は建物に質感を与え、ベースの外装材を補完する外装材として好んで使用されています。真っ白な状態のシートに研磨済み玄武岩を使用することで違った効果が得られます。
外装材の中で、石は家の内装にもよく使用されている材料の1つです。壁、暖炉回り、またはキッチンのベンチトップに使用されます。
⑥漆喰(しっくい)ファサード
漆喰は何世紀にもわたって使用されてきた技術であり、表面に継ぎ目をつくりません。近代の漆喰、またはStucco(スタッコ)は、改質セメント・ベースの漆喰を強化したもので様々な材料に適用されています。
伝統的にスタッコは煉瓦やブロック、ファイバーセメント(繊維セメント)、あるいはベニヤ版の上に使用し、その後塗装します。この漆喰の伝統的な施工方法は、1920年代からニュージーランドで使用されはじめました。
今では近代的な漆喰の施工方法があり、木材または鉄材のフレーミングに使用した際には他の多くの外装材のように構造体を湿気から保護する効果が得られます。
漆喰の外装は全て、資格を持った建築士によって施工されなければなりません(漆喰施工免許)。現在の漆喰施工には、手作業による何層もの漆喰と補強、アクリル仕上げ、または塗装による窓のフラッシング(雨押さえ)が含まれます。漆喰とフラッシングとで施工方法が若干異なる場合がありますが、いずれにしても建築規定要網に准ずる必要があります。
通常、施工方法で大きな変更といえば、適用可能となる基板に変更があった場合です。様々な基板または裏材には、煉瓦やブロック、断熱材、AACコンクリートまたはファイバーセメントなどが含まれます。それらの基板は、断熱効果や衝撃吸収効果といった利点をそれぞれ持っています(使用場所や使用目的による)。
外装材がすべてそうであるように、漆喰もまた塗装や掃除といった一般的なメンテナンスが必要です。漆喰は表面が平らなため比較的塗装がしやすく、また必要に応じて色を変えることもできます。
結論として、建築デザインは、モダンなものから、家庭的なもの、実用的とそれぞれ個性がありますが、近年は、デザイン性があり、実用的なもの好まれる傾向です。建築デザインの特徴を知ることで、投資効果を上げることができるのです。
Author Profile
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1982年、大阪女学院短期大学英語科卒業。カリフォルニア大学デイビス校留学。帰国後、旅行会社のツアーコンダクターに従事。1987年、ニュージーランドツアーの添乗を機に、移住希望を持つ。
1995年1月の阪神・淡路大震災を経験し、1996年に移住を実現。 自己の居住用物件さえあれば、落ち着いて生活ができると感じ、ワンルームマンション購入を実行。その経験を生かし、不動産業界に参入。当時インターネット環境が整いつつある中、日本語ウェブサイトを開設し、留学・観光・不動産投資についてのコンサルティングを始める。
現在、ニュージーランドの大手不動産売買仲介会社であるHarcourts New Lynn(ハーコウツ・ニューリン)支店にてセールスコンサルタントとして活動しながら、日本人のための投資コンサルタント会社Goo Property NZの代表として活躍中。
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