ニュージーランドでは、住宅価格の上昇に伴い、賃金の引き上げが求められています。今回は、賃金の引き上げに向けた政府の対応を見ていきましょう。
賃金の上昇率が鈍化…政策金利の切り下げが議論に
6月期の賃金および雇用が期待を下回った結果、準備銀行が目標に掲げるインフレ率2%(中間)に近づけるため、同行による25ベーシスポイントの政策金利の切り下げ発表があるとの見方が強まっています。
スタティスティクスNZの報告による6月期の人件費指標(LCI:Labour CostIndex)および年4回の雇用調査(QES:Quarterly Employment Survey)データによれば、同期の民間部門での人件費が0.4%上昇し、また昨年6月期より1.6%上昇しましたが、前期の年間成長率である1.8%からは低下しました。これは市場が期待していた0.5%程度の人件費増を下回るものでした。
QES(の測定法)による6月期の正規雇用率は0.3%の伸びを示しており、これは成長率を0.7%程度とみていたエコノミストらの予想を下回るものでした。正規雇用率は6月までの1年間に3.1%上昇しています。
ASBシニア・エコノミストのジェーン・ターナー氏は以下のように述べ、低い賃金が低インフレ予想を招くことについても言及しました。
「6月期の賃金インフレはASB、および市場の読みを下回るものでした。この(年間)賃金インフレ率は、準備銀行が予想するインフレ率への圧力となり、少なくとも2度に渡る政策金利切り下げの必要性が強調されることになるでしょう」
続いて、ANZシニア・エコノミストのフィリップ・ボーキン氏は、以下のように述べました。
「雇用と賃金インフレの伸びが共に緩やかであったために、この雇用指標は期待を僅かに下回るものであリました。また、これら指標から、6月期の失業率が実際には上がっている可能性がありますが、私たちは労働力需要は依然強くあるとみています」
「しかし、労働力供給の強い伸びがある中(HLFSが調査中)、労働市場の余剰資源すべてを用いても、労働力の速やかな吸収は行われていないようです」
[図表1]時間当たりの最低賃金
また、同氏は「労働市場の余剰資源によるこの緩やかな吸収に、低い賃金インフレが追い打ちをかけています」と述べ、3月期に比べ、6月期の方が賃上げのなかった労働者数が多いことについても指摘しています。
年間でみた場合の建設部門における6月期の賃金インフレ率が3月期の2.2%から2.0%に低下したことに驚きを隠せないと氏は言います。
ほか、BNZのシニア・エコノミストであるダグ・スティール氏は以下のように述べました。
「特に賃金上昇の兆候がみられないという点においてこのデータは少々期待外れなものであり、賃金は遅行指数ですが、不十分な賃金インフレ率は準備銀行にとっても懸念するところとなるでしょう」
「賃金インフレを押し上げる圧力が欠如しているこの状況は、今後数カ月の間に準備銀行が政策金利の切り下げを実施する後押しとなるでしょう。今後の経済状況とインフレ率によっては、少なくとも1度(次回の会議で発表)、あるいは必要に応じて2度、3度の追加緩和が実施されるでしょう」
ASBは8月と11月に政策金利切り下げが実施されるとみる一方で、ANZは8月と2月の実施を予想しています。
ファーストNZ(First NZ)のクリス・グリーン氏は、「賃金増の低下により今後の金利切り下げ実施への期待感が強まったと。賃金への圧力が3月期より弱まり、準備銀行が目標とするインフレ率の2%を下回りました」と述べ、年間の建設業の賃金増が2.0%と低かったことについても言及しています。
このデータの発表後、NZドルは30ベーシスポイント下げて72.1米セントとなり、金融市場では最低でもあと1度、あるいは可能性として2度の追加緩和実施への期待感が強まりました。
[図表2]政策金利
住宅価格の高騰は続くも、労働者の4割強は賃上げなし
高等教育・技能・雇用(Tertiary Education, Skillsand Employment)大臣のスティーブン・ジョイス氏は、以下のように述べました。
「3.1%の雇用増は堅調なものであるとし、1年前から2.0%上昇した6月期の週の平均賃金は、CPI(消費者物価指数)の上昇率が0.4%であることを考慮すれば「健全」に推移しており、年間の実質賃金上指数は1.6%増であり、実質賃金増が緩やかに続いています」
また、労働党党首のアンドリュー・リトル氏は、以下のように述べています。
「オークランドの住宅価格は過去8年間にみる賃金上昇の4倍の速さで上昇し、家族でオークランドに住まうことは次第に困難になってきています。高騰する住宅価格と賃料が低いままの賃金と相まって、看護師や警察官、教師といった公務員を含む多くの労働者が苦しい状況に置かれています」
氏は、昨年賃上げのなかった労働者は全体の44%(1年前から1パーセントポイント上昇)であり、67%の労働者の賃金増が2%以下(1年前より6パーセントポイント上昇)であったとする指標について言及しています。
「この新たなデータは、ほとんどの労働者が自身の賃金に経済成長の恩恵が反映されていないと感じていることを示しています」とリトル氏は言います。
住宅価格の上昇がもたらす、賃金インフレへの圧力は、ますます強まるものと予想されます。
Author Profile
-
1982年、大阪女学院短期大学英語科卒業。カリフォルニア大学デイビス校留学。帰国後、旅行会社のツアーコンダクターに従事。1987年、ニュージーランドツアーの添乗を機に、移住希望を持つ。
1995年1月の阪神・淡路大震災を経験し、1996年に移住を実現。 自己の居住用物件さえあれば、落ち着いて生活ができると感じ、ワンルームマンション購入を実行。その経験を生かし、不動産業界に参入。当時インターネット環境が整いつつある中、日本語ウェブサイトを開設し、留学・観光・不動産投資についてのコンサルティングを始める。
現在、ニュージーランドの大手不動産売買仲介会社であるHarcourts New Lynn(ハーコウツ・ニューリン)支店にてセールスコンサルタントとして活動しながら、日本人のための投資コンサルタント会社Goo Property NZの代表として活躍中。
連載コラム 記事一覧 >
最新の投稿
- 連載コラム2024.03.08【連載193回目】
オークランド地区、2月の不動産平均価格は100万NZドルを下回る…購入は速やかに、売却は8~9月まで辛抱を - 連載コラム2024.02.16【連載192回目】〈NZ不動産〉銀行金利7~8%、住宅平均価格100万NZドル超の厳しい状況…投資家の動きは?【現地バイヤーが解説】
- 連載コラム2024.01.19【連載191回目】「NZ移住のきっかけは、阪神淡路大震災でした」現地不動産のプロが、不測の事態に備えた国際的な〈資産分散資産・資産形成〉を真剣に勧める理由
- 連載コラム2023.12.15【連載190回目】〈NZ不動産の最新事情〉「物件価格低迷&銀行金利上昇」で、購入を迷うバイヤー多数だが…不動産のプロ「待たないほうがいい」と考えるワケ