オークランドの住宅価格は現在もなお高い上昇率を見せていますが、ブライトラインによるキャピタルゲイン課税規定、住宅融資規制の変更が、今後の不動産市場にどのような影響を及ぼすのか、多くの投資家は疑問を持っています。今回は、その影響について見ていきましょう。
国内の住宅価格予想は「来年も上がり続ける」
現在も続くオークランドの住宅価格の急騰とその近隣地域での住宅価格の上昇を受け、11月の住宅価格の上昇率は、昨年の同時期と比べ16.9%に上がりました。しかしその一方、「ブライトライン」(不動産購入後、2年以内に売却した場合、キャピタルゲイン税を払わなくてはいけないルールになっているなどの条件を満たす判断。購入者が、どの条件に合致するかのライン)によるキャピタルゲイン課税規定および住宅融資規制の変更によって、いったい何が変わったのかと、多くの人が疑問を感じています。
[図表1]オークランドと近隣地域の住宅価格上昇率
しかし、この状況はまだくすぶりをみせているだけだと考えられます。オークランドの住宅市場を包み込んでいた熱気は次第に落ち着きを見せる一方、国内の住宅価格は来年も上がり続けると予想しています。
それでは、住宅価格の上昇にまつわる疑問について、下記にまとめます。
オークランドの住宅価格上昇にまつわるQ&A
Q1. 新規制によって形勢は変わりましたか?
A1. 形勢は、新規制が導入される前に、既に一変したものと考えられます。
ブライトラインのキャピタルゲイン課税規定がもたらす効果の予想から、10月1日に発表されたこの新規制が導入される前には、多くの不動産投資家たちによる駆け込み需要がありました。さらに、11月1日に実施された住宅融資規制の引き締めが、オークランドの投資家たちによる不動産の前倒し購入を後押しました。
オークランドの投資家たちが国内投資に与える影響の大きさは、国内の住宅市場の40%をオークランドが占め、オークランドにおける住宅物件購入の40%が投資家によるものだということから分かります。
こうした理由から、新規制が施行される数カ月前から住宅需要の人為的インフレが生じていると考えられ、将来的に月間売上が減速するだろうと予測しています。
Q2. オークランドの住宅価格は下がりますか?
A2. すぐには下がらないでしょう。最終的に下落が起きるとしても、大幅な落ち込みはなく、また長引くこともないでしょう(図表2参照)。
今年初めのインフォメトリックスによる記事で、ガレス・キーナン氏はオークランドの住宅需要を押し上げる潜在的圧力について、次のように述べています。
「2009年初め以来、人口増加がオークランドの住宅在庫を上回っており、オークランド住宅供給協定(Auckland Housing Accord)に基づき新規住宅建設が押し進められている一方で、オークランドの住宅供給は依然潜在需要を下回る状態が続くでしょう」
しかし、QVNZ(Quotable Value New Zealand)によるオークランド住宅価格の季節調整値では、毎月の住宅価格上昇率が9月の2.3%をピークに、10月では2.0%にまで減速しています。この1カ月だけのデータが示す状況が続くとは考えにくいですが、12月1日に発表されるデータでオークランド住宅の価格上昇に更なる減速がみられるか注視したいと思います。
[図表2]オークランドの住宅価格予想
Q3. オークランド周辺地区の住宅市場は今後どうなるのでしょうか?
A3. 住宅価格の急騰はもはやオークランドに限られたことではなく、オークランド周辺の主要地区でも強い価格上昇傾向がみられます。
「ブライトライン」のキャピタルゲイン課税規定による効果の前兆として、オークランド周辺主要地区では投資家たちによる物件の前倒し購入という、オークランドと同様の反応がみられます。しかし、準備銀行の住宅融資規制の変更はこれとは逆の効果をもたらすでしょう。
その理由の1つは、オークランド以外の地域では11月に住宅融資規制が緩和されているという点です。オークランド以外の地域では、銀行は20%未満の頭金(での住宅購入)に対する新規貸付を15%まで行うことができるようになりました(以前の制限下では20%未満の頭金に対し10%まで)。
2つ目は、オークランド市場への規制強化およびオークランド近隣での住宅価格上昇が、投資家たちをオークランド周辺地区の不動産市場に向かわせると考えられる点です。人口増加および経済活動の向上により、こうした地域での住宅への潜在需要は高まっており、同地域における住宅価格の上昇は数カ月の間加速し続けるだろうと予測しています。
[図表3]オークランド近隣の住宅価格上昇率
Q4. 規制変更により、国内の他の地域が影響を受けるとみるべきですか?
A4. いいえ。影響は受けないでしょう。
ブライトラインによるキャピタルゲイン税は、購入から2年以内に売却された投資目的の物件(住人不在物件)のみを対象としています。10月のオークランド以外での住宅価格の予想上昇率は年率で7.6%で、これにはハミルトンで今なお価格上昇が強まっていることも加味されています。
オークランド以外の地域では住宅価格が低めであるとはいえ、投資家たちがキャピタルゲインによるクイックリターンを求めてワイカトやベイ・オブ・プレンティの南部地域の物件を購入するのは極めて限定的でしょう。
20%未満の頭金での住宅購入に対する新規貸付割合が10%から15%に引き上げられただけでは、国内の他の地域での住宅融資規制の緩和による効果は非常に限定的なものになります。さらに、諸銀行は準備銀行の規制の範囲内に留まることに留意するでしょう。
昨年度の高額住宅融資の平均割合は、上限10%に対し、6.4%でした。そのため、今回の住宅融資規制の緩和による効果は、オークランド以外の一部の地域の住宅市場に限られるでしょう。
今後も様々な規制による価格動向を注視したいと思います。
Author Profile
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元ツアーコンダクター。世界を周る中で、オセアニアのニュージーランドとオーストラリアを添乗したことがきっかけで、NZオークランドに移住を決意。淡路阪神大震災を経験したこともあり、1996年にオークランドへ移住実行。
「住居さえあれば暮らしは成り立つ」とワンルームマンションを購入したことがきっかけで不動産業界に参入。
20年間所属していた現地大手不動産仲介会社Harcourts(ハーコウツ)から、2018年創業の新しい不動産仲介会社Arizto(アリスト)Ltdに移籍。デジタル化社会・SNS時代に適合した独自システムを活用しながら、新時代の不動産コンサルタント業務に従事。精力的に活動している。
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